多くの手間と時間がかかる空き家調査業務に頭を悩ませていた
-どういった課題を認識していましたか?
「川西市では、他の自治体と同様に管理不全の空き家が問題になっていました。管理不全の空き家は、老朽化による倒壊、景観の悪化、放火による火災など、近隣住民に深刻な被害をもたらす原因となり得るため、さまざまな対策が必要です。当市でも、2018年に策定した『川西市空家等対策計画』の改定時期が迫っていたことなどから、空き家の現状を正確に把握しなおす必要に迫られていましたが、実態調査やシステム整備の予算がつかない状況で頭を悩ませていました。」
-それは大変ですね。実際にはどのように対応されていたのでしょうか?
「当市では、『空き家対策ナビゲーター』に空き家実態調査の調査員として協力いただいていました。『空き家対策ナビゲーター』とは、NPO法人兵庫空き家相談センターと市が協働で養成した空き家の知識を習得した市民相談員です。アプリ開発以前は、この調査員に紙の調査票を配り、現地で調査票の記入と写真撮影をしてもらい、所定のExcelフォーマットにデータを入力するといったやり方をしていて、非常に手間と時間がかかっていました。」
-どのようにして解決策をお探しになったのでしょうか?
「空き家調査を受託する事業者の提案を聞くなどしていました。ある事業者から、自社で開発したタブレット端末を使って空き家を調査する方法があることを知り、それはいいなと思いした。ところが、業務委託にすると調査データを他の目的で使われてしまう懸念があるため、スマートフォンでも調査できる独自のアプリを開発しようと考えました。」
アプリ開発では調査員の協力を得るために使いやすさを追求
-Unifinityを選定された経緯を教えてください。
「アプリを活用すべくさまざまな提案を受けました。当市としては、調査員の協力を得るうえではシンプルで使いやすいアプリであることが必須でした。また、データを民間企業に渡さずに使えることも条件の一つだったのですが、多くの会社の提案は、使い勝手の悪いアプリであったり、調査データを自社の業務に活かそうとしたりで、なかなか条件に合いませんでした。そうした中でユニフィニティー社の提案は、当市のためにアプリを一から構築するものであるにもかかわらず、kintoneとUnifinityというノーコードの組合せであることからコストが安価に抑えられるという点が好印象でした。また、担当者のプレゼンが丁寧で分かりやすく、市の意見に対して真摯に向き合ってくれたことからも、一緒に仕事がしたいと感じましたね。」
-導入にあたって苦労した点はどのような点ですか?
「調査員の入力時の手間は減らしたい一方で、目標の達成に向けて必要なデータ量というものもあるので、それらのバランスを調整するのには苦労しました。こちらとしては、空き家に関するデータは多ければ多いほど助かるのですが、入力項目をあまり増やしてしまうと、調査員の方々が登録を手間に感じてしまいます。これについてはトライ&エラーを繰り返しながらの開発となったため、時間がかかりました。」
調査員の約9割が使い勝手に満足する、簡単に使えるアプリが完成
-完成したアプリの概要を教えていただけますか?
「スマートフォンにアプリをインストール後、空き家の現場で、アプリを起動します。空き家の位置情報をスマートフォンのGPSで取得したうえで、外観の印象、表札の有無、雨戸や郵便受けの状況などを順番に入力し、空き家の外観写真を撮影します。メモを残す機能もあるため、現地で取得した情報や調査時に気付いた点なども記録できます。」
-アプリを導入して、期待した効果は得られましたでしょうか?
「かなり大きな効果が出ています。ひとつは、調査用具が大幅に簡素化されました。以前は、調査のために地図や調査票、カメラなどを用意する必要がありましたが、いまはアプリをダウンロードしたスマートフォンだけで足りるので、手軽に調査ができるようになりました。次に作業時間です。現地で調査後に報告書をまとめて市のデータベースに送信するため、調査から報告までに3日くらいかかっていましたが、その場でスマートフォンからすぐに送信できるため5分ほどに短縮されました。また、ユーザーの満足度も非常に高いです。アプリを実際に使った調査員の88%が、操作性が良い又は問題ないと評価しています。これは、開発中にいろいろと苦労した点でもあったのでとても嬉しかったですね。これらの効果が評価され、国土交通省の第34回『住生活月間』における功労者表彰で、国土交通大臣表彰を受賞することができました。」
-それは素晴らしいですね。最後に、今後の展開について教えていただけますか?
「まずは当市の空き家対策の方向性を示した『川西市空家等対策計画』の見直しを2023年度末に予定していますので、今回アプリを使用して得た空き家情報を活用して市内全域における空き家の動向等を把握した上で、今後の空き家対策を検討していきたいと思います。また、現在は、市民からの空き家に関する苦情や相談については、基本的に電話で受け付けているので、話を聞く時間や聞いた内容を台帳に記録する時間が取られてしまいます。今は実現していませんが、今後は空き家に関する相談や苦情を受け付ける窓口も電子化をして、空き家対策業務全体の効率化を推進していきたいと思っています。」